親であるあなたへの、ささやかなメッセージ〜子ども時代の私から 

岡山版 2006年9月2日

作成:泉流星(協力:C.H氏[心理相談員]、M.H.氏[親]、T.Y.氏[旧養護学校教諭])
※無断で転載、引用、プリントアウトの配布等をしないようお願いします。

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  • 親は一番身近で長時間子どもを観察している存在で、その点では子どもについての専門家の一人。(他の専門家はもっと幅広い知識と経験のある医師や教師やセラピスト)
  • ただし、子どもは親のいないところでは違うふるまいをすることもよくある。自分の子どものことは誰よりも自分が一番よくわかっている、という思い込みは、やめたほうがいい。(「わかったつもり」になっている人ほど、本当はわかっていない)
  • 自分が観察したことを、他の専門家たちとわけあい、それぞれの立場から協力していくことが大切。気づいたことをメモしておくのもいい。
  • (教師や、福祉関係の方々には、親も自分の子どもに関しては、ある意味で専門家なのだということを認め、親の言葉にも耳を傾ける態度を見せてあげてほしい。専門職である自分のほうが「よくわかっている」という思い込みも、やはりしないほうがいい)
  • 子どもには挫折や失敗など、苦く辛い経験をする権利がある。
  • 水に入らずに泳ぎ方を覚えることはできない。子どもを守るつもりで、親が常に先回りしてしまい、実体験のチャンスを勝手に取り上げてはいけない。
  • 親は子どもが苦しい経験から学ぶことを助け、励ましや慰めを与え、見守るためにいるのだと考えてほしい。挫折や失敗は誰の人生にも必ずあるし、それを乗り越える力を身につける唯一の方法は、成長しながら小さな挫折や失敗を繰り返すことだ。
  • 親は、子どもにとって常に安心できる場所を提供して、支えになってほしい。そして、他人の痛みをわかる(他の人も自分と同じように、嫌なこと、つらいことを乗り越えながら生きていると理解できる)人になれるよう、できる限り手助けしてほしい。
  • 子どもの可能性は無限大ではない。(人間である以上、必ず限界はある)
  • 無限大なのは、試せる可能性の「数」だ。どんなことにでも、何度でも、人は常に何かに挑戦することができる。挑戦すること(=失敗を繰り返すこと)を通して、人は自分にできることとできないことがあり、向き不向きがあるのを知り、自分の限界を見極めることができるようになる。
  • スポーツ選手のことを考えてほしい。彼らは自分に適した分野を選んで競技をする。そして、自己ベストを知った上で、さらに限界を押し広げるために努力している。
  • あなたも、私も、子どもたちも同じように、選んだ分野で努力することができる。
  • 親になることを選んだ人は、子育てを通して自分も成長している。子育てに正解はないけれど、自分の頭でよく考え、よく悩み、できるだけの努力をすることは、子どもによいだけでなく、親自身を成長させてくれる。(悩むのは、必ずしも悪いことではない)
  • ふつう、人がやりたいと思い描いていることと、実際にできることは同じではない。幼い子どもに将来の夢を聞いてみるとよくわかる。(ウルトラマンになりたい、とか、明らかに実現不可能なことを言う子が必ずいる)
  • 夢と現実の違いは子どもをがっかりさせるかもしれない。けれど、違いは実在する。親がそのことを隠したり、ごまかしたりしてはいけない。
  • どんな人でも、自分にあるもので満足し、持っている能力を最大限に活用することしかできない。(まれに、心底好きな分野で素晴らしい才能に恵まれている幸運な人もいるにはいる。そういう人が天才と呼ばれるのだと思う)
  • 発達障害を持っていると世間の無理解にぶつかることも多いだろうし、自閉傾向がある子どもは、どうしても不安になりがち。でも、ふびんだとか、かわいそうだとばかり思わないでほしい。
  • 親が「人並み」めざしてあれこれ無理にやらせるのではなく、本人が、自分からやってみたいと思うように、好奇心を育てる努力が必要。やってみて、たとえうまくいかなくてもかまわないのだという安心感を与え、トライした勇気をたたえて大いにほめ、子どもに、またやってみたい、もっとやってみたいと思わせる工夫をしてほしい。
  • 親には与えられないものもある。子どものすべてを親が取りしきれるわけではない
  • 子どもは生まれた日から、少しずつ親とは違う自分自身の人生を歩き出している。
  • 問題が起きた時、親でなく信頼できる第三者を頼ることが必要な場合もあるし、時には自分ひとりで向き合うことも必要になる。
  • 発達障害と診断されている子どもには特に、知っておくべき大事なことが3つある。
  1. 自分が、時には他の子どもより多くの援助を必要としていること。
  2. 自分だけで解決できない問題がある時は、助けを求めてもいいこと。
  3. 親以外に、信頼できて助けを求めてもいい人は誰なのか。
  • 困った時にどうすればいいのかや、誰を信頼していいのかといったことは、社会性の弱い子どもには、特に判断が難しい。
  • 親にとっては特別な子どもでも、他の人たちにとっては特別ではない。(どの子もみなひとしく特別な、スペシャルな子どもだから)
  • 自分の子どもは特別な存在だと思うのは自然なこと。何らかの障害があると診断された子どもなら、なおさら特別な存在だろう。ただし、親以外の人にとっては、あなたの子どもだけが特別なわけではない。
  • 障害のないきょうだいは「手のかからない方の子ども」ではないことも、忘れないでほしい。
  • あなたが子どものためにやっているつもりのことが、実は単に世間体を守るためや、自分にとって都合よく物事をはこぶために、なっていないだろうか? 特殊学級に入れるのは体面が悪いからいやだとか、逆に、診断名があるのにちっとも特別扱いしてもらえないのは損だとか、思っていないだろうか?
  • 思い通りにならないことを数えあげては、不満でいっぱいになってしまう人は、自分自身のことを振り返って、もう一度考えてほしい。自分本位にものを考えすぎては、いませんか? 
  • 残念ながらこの世界、つまり地球は太陽を中心に回っている。世界はあなたを中心に回っているわけではない。常に謙虚な気持ちを忘れないでほしい。
  • 障害を持っていることは、特別な配慮をしてもらって当然の権利があることではない。特別な理解や配慮を求めてもいいだけの、十分な理由がある、というだけのこと。
  • もちろん、絶対に周囲に迷惑をかけてはいけない、ということはない。周囲の目を気にしすぎていると全く外出できなくなってしまう。子どもが騒ぐのをがまんしてもらったり、親の手に負えないことでは第三者に助けてもらったりすることもあるだろう。
  • けれど、なるべく他人に不快な思いをさせたり、迷惑をかけたりしないよう、心がけて行動してほしい(例えば、お店の商品をこわすとか、他人にかみつくといった行為は、たとえわざとやっているのではなくても、しつけで直るものではなくても、間違いなく、実際に他の人に被害をあたえている)。
  • たとえ子どもにはわからないと思っても、「他人に迷惑だからしてはいけない」ことは、その都度、何度でもはっきりとその通りに、言葉で言い聞かせてほしい。
  • 「お店の人に怒られる」「こわいおばさんに叱られる」などという表現は絶対にやめてほしい。他の人たちにも聞こえているのだということを忘れずに。親のそんな言葉は、子どもの迷惑なふるまい以上に周囲の人を不快にする。それに、あなたが話しかけている相手は、自閉傾向のある子ども、言葉を文字通りの意味に理解しがちな子どもなのだから。
  • 子育ての最終目標は、社会の中で自分なりに自立して生きていけること。
  • そのためにも、好感を持って受け入れられる人になるよう、努力してほしい。
  • 社会性の弱い子どもは、他人の都合や他人の立場がわかりにくいので、どうしても自分中心にふるまいがち。なるべく他人に対する作法を(パターンとしてでいいので)身につけること。
  • 頼るべき時にはしっかり助けてもらうこと、そして、してもらったことに対しては、感謝やお礼をあらわす態度や言葉を返すことができるのを目標に、育ててほしい。
追記:心身の健康管理
  • 自閉傾向のある子どもは、感覚過敏だったり、チームプレイが苦手だったりするため、普段から身体を動かすことが少なくなりがち。特に学校を修了すると、運動する機会はかなり減ってしまう。本人が嫌がらずに続けられることを見つけ、なるべく早いうちから普段の生活の一部として、運動する習慣を身につけるようにしてほしい。体力を維持することは、生きていくうえでとても重要なことだから。
  • 体力と気力は表裏一体で、身体が健康で体力に余裕があれば、感覚過敏もあまり神経にさわらないこともあるし、気持ちが落ち込んで辛いときでも、乗り切れる気力がわく。有酸素運動は薬と同じぐらい抗うつ効果がある、という研究結果も出ている。
  • 最後に食生活について。触感やにおいや味に過敏反応して、食べられないものがあるのはしかたがない。けれど、できれば、好き嫌いはあっても、とりあえずできる限りいろいろなものを食べることができるのが望ましい。食べられるものが余りに限られていると、旅行や遠出ができないなど、行動まで制限されてしまうし、災害時などは、深刻な飢えに苦しむことになるかもしれない。
もうひとつだけ追記:

  • 「人びとにしてほしいと、あなたの望むことを、人びとにもその通りにせよ」(聖書)    「善人は、良い心の倉から良い物を取り出し、悪人は悪い倉から悪い物を取り出す。 心からあふれ出ることを、口が語るものである」(同上。両方ルカ6章より) 決して悪気はなくても、他の人やよその子どものことについては、話題にすべきでないこともある。自分や子どもの障害が、知らないところで誰かの噂話の種にされて嬉しい人はいない。口をつぐむこと。自分がされたら嫌だろうと思うことは、何であれ他の人にもすべきではない。
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